雑種犬肉球日記

雑種犬が書いたブログ。

もう一度あなたに逢うために

昨日は俺的号泣必至小説「安徳天皇漂海記」について書きましたが、今回は俺的号泣必至小説第二弾。

今は亡き超絶SF作家・伊藤計劃が病床で構想を練り続け、盟友である芥川賞作家・円城塔に託した遺作にして合作。

屍者の帝国」です。

 

バベッジの差分機関が実用化され、フランケンシュタイン博士の生み出した屍者が、生者に使役され労働する「こうあり得たかもしれない」英国。大学で医学を学ぶワトソン青年は、ひょんな事から英国の諜報員として、護衛役の冒険家と、情報解析と記録のための屍者・フライデーをお供に、インドからアフガン、ロシア、日本にアメリカと、世界を股にかけ旅に出ることになる。旅の目的は、未知の屍者身体制御プログラムの出どころと正体を暴くこと。旅の途上、ワトソンは謎の美女・ハダリーと出逢い、旅路はやがて、屍者誕生の真実へとワトソンを導く…。

 

超ザックリご紹介してしまいましたが、とにかく濃厚な一冊です。ビクトリア朝の英国、及び同時代の欧州・米国・中央アジア等の国際事情、また明治初頭の日本について、様々な資料や史実、小説のエッセンスを盛り込み、一大スペクタクルを展開しております。実際に読んでいて気づいただけでも、007シリーズに「八十日間世界一周」、「未來のイヴ」「風と共に去りぬ」、更に「海底二万マイル」「大唐西域記」「我はロボット」「ディファレンス・エンジン」「ドラキュラ」「東方見聞録」「ロビンソン・クルーソー」…。イメージの基礎となったであろうものを推定しただけで、こんなにザクザク出てくるので、ちゃんと教養のある方が読まれれば、もっとイロイロ出てくると思います。

ロシア好きな私が個人的に狂喜したのは、作中にかなりのウェイトを占めている「カラマーゾフの兄弟」の要素。アリョーシャにコーリャ、イワンが、まさかのあんなことに‼︎ ああっ言いたい、でも言うとネタバレにつながりかねない地雷シークエンスなんだよロシアはー‼︎

 

と、ミーハー的なはしゃぎ方をしてしまいましたが、この物語の真髄は、ワトソン君の旅路が終わったその後、エピローグにあります。このエピローグに登場する「ぼく」が何者なのか、ぜひこの小説を最初から最後まで読んで、確かめてください。「ぼく」が新たな冒険に旅立って小説は終わりますが、その旅立ちの動機に私は感動で目頭がこう、ガッと熱くなって切なくなりましたよ。

誰が誰に、何に根ざす感謝を伝えたいのか。

もう一度逢いたい。その想いは、どこから生まれ出るのか。

長い旅の果ての答えが、そこに集約されています。

これもまた、広く読まれるべき小説だと思います。