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雑種犬肉球日記

雑種犬が書いたブログ。

空の青さがただかなしくて

繰り返されるのは起伏のない日常。

同じように朝を迎え、同じように日を過ごし、同じように明日を迎える毎日。

なじみの店に通い、同じメニューを注文して、ときどきは女の子と遊びに行ったりもする。

その静かな暮らしはすべて、たった一つの目的のため。

いつか戦って死ぬための、ただそのための平穏。

そんな静けさの中で、それでも僕らは、同じ顔して過ぎていく一日を生きる。自分の心を少し持て余しながら。

 

ということで、今日は「スカイ・クロラ」の話をしますよ。

原作は森博嗣、監督は押井守。淡々と、でもそのぶん切実に語られる原作の物語を、映画は見事に描破してくれました。

この映画は実は、何度も繰り返して観ることで、物語の奥行きがグッと増すのです。

ヒロイン・水素が序盤で見せる言動は、初見では訳がわからないものですが、二度三度と観てゆくと、何故こんな行動をとるのか、その理由と意味の哀しさに気づかされ、彼女の胸のうちに思いをいたし涙せずにはいられません。知らない人からすると、映画の冒頭10分かそこらでむせび泣くおかしな奴ですよ。

映画は戦闘機の空中戦での撃墜シーン後、主人公・優一が小さな基地に配属されてやってくるところから始まります。基地の司令官・水素はどこか他人を寄せつけない、張りつめた雰囲気で、パイロット仲間たちも何だかいわくありげな様子。初めて訪れたはずのドライブインでは、古いなじみのように店主に迎えられ、パイロット相手の娼館で出逢った女性は、優一がやってきたことで先任パイロットの死を納得する。

静かな日常の中で、それとなく少しずつ、周囲の人たちが話すこと、見せる表情から、先任パイロットの死に至るまでの経緯が明らかになってゆく。それは、水素の哀しいほどかたくなな決意の基となるものだった…。

 

とにかく映画は淡々と、静かに、しかし半歩でも踏みはずせばすべてが壊れてしまうような、危ういところでバランスを保つ緊張をはらみ展開してゆきます。

二人での外出をきっかけに距離を縮める水素と優一ですが、水素はそれ故に自分を許せず、ときに優一に銃を向けもしますが、その理由は終盤、彼女自身から語られる、あるつらい理由あっての言動でした。

繰り返して言います。

この映画は、何度も観ることで、初めて真に味わうことができます。

終盤の水素の言葉を聴いて、優一の選択とその結末を見届けてから、もう一度最初から観てください。

水素の言動が何に根ざしているのか。優一の感じる既視感がどこから出てくるのか。

 

2回観れば、何で私が序盤からズルズル泣くのか、よくお解りいただけると思います。

あの空の美しさがただかなしくて、観るたびに私ははらはらと涙するのです。

 

こんなに身を切るほど切実で、登場する恋人たちがお互いに対し誠実な物語、そうそうないですよ。