ここのところ、腰痛その他でどうにもゲンが悪いので、気持ちを切り替えるのと厄落とし的なナニとで散髪してきたら、第二滑走・第三滑走あたりのユリオの2Pカラーみたいになってしまいました。ヒョウ柄の服なんて持ってないぞ。どうしたものか。まあいいや。
それでは始めよう。
「ユーリ!!! on ICE」第三滑走を考える。題して「ハートに火を点けて」(ドアーズか。ドアーズなのか)
前回・第二滑走で登場したユリオと勝負することになった勇利。この第三滑走は、ヴィクトル=サンが2人に振付のデモンストレーションをするところから始まります。
ここまで、彼のスケーティングについては「金メダルを総なめ」「リビングレジェンド」という評価のみが語られていましたが、ここで初めて、振付の見本ではあるものの、プログラムを滑ってみせる姿が出てきます。ごくわずかなカットながら、勝ち気なユリオがまばたきもせずにじっと見つめるその眼で、ヴィクトル=サンのスケーティングを評する言葉が真実であることがうかがえます。
ユリオに振り分けた「アガペー」の振り付けを見せたところで「あんまりステキだったからつい、」と優子ちゃんがリンクサイドへ出てくるところでも、それは証明されていますね。ユリオ、「何だよそのおんな!」なんて文句を言うものの、相手は現役ママの母性と優しいお姉さん的な雰囲気を持ち併せる優子ちゃんです。すぐ憎まれ口が引っ込んでしまいます。かわいいね。
続いて勇利の「エロス」の振付ですが、ここで「世界一モテるおとこ」の面目躍如! 曲のイントロが流れ、ふ、と顔を上げて挑発的な微笑みのヴィクトル=サン。
優子ちゃんが心臓を射抜かれ鼻血噴きました。そのぐらいエロス。私も初めて観たときに吐血しそうになった…。
勇利はといえば、なにせ憧れの人が、自分のために振付を見せてくれているだけに、やっぱり見つめてはいるものの、あんまりにも濃厚な「おとこの色気」に戸惑いを隠せず「おとこの僕でもニンシンしてしまいそうなエロス!」と驚きながらも、これを自分が滑れるのだろうかと甚だしい不安に襲われます。このうろたえぶりから、たぶん、これまでは清潔で爽やかなアイドル路線だったのではないかと思われます。
どうだった? とヴィクトル=サンに訊かれ、答えに詰まって「すっごくエロスでした!」と応じるのが精一杯の勇利。プログラムの構成を考えるために、4回転は何が飛べるのかと訊かれて「トウループと、サルコウは練習では成功してるんだけど、」と、段々尻すぼみになる彼にヴィクトル=サンは言います。
「今、勇利ができないことを僕は教えたりしないよ」
今できないことを無理強いはしない、つまり勇利のペースに合わせ教えていくということです。
「君は今まで、何回本番で失敗してきた? 勝てるスキルがあるのに、なぜ発揮できない?」
このヴィクトル=サンの問いに、勇利はうつむきながらやっと答えます。「それは、たぶん、自分に自信がないから…」そう、自信が持てないのは判っているんです。勇利が何より欲しいのは、どうすれば自信を持てるのかという答え。なぜ自信を持てないのかという理由。
大概の場合、自信が持てないというと「持ちなさい」と肩を叩かれて終わりますが、ヴィクトル=サンは違いました。
「そう。勇利に自信を持たせるのが、俺の仕事だよ」
どうすれば勇利が自信を持てるのか一緒に探そう。そう言い切るのです。
「世界中のみんなは、まだ勇利の本当のエロスを知らないんだ。それは勇利だってまだ気がついていない魅力かもしれない。それを早く教えてくれないか」
更に続けるこのひと言! 前半がコーチとしての言葉だとしたら、これは勇利のスケーティングに魅了された者としての言葉でしょう。これを、真正面から超々どアップで囁くんですよ。世界一モテるおとこが。なんて罪作りな。
「じゃ、勇利。自分にとってのエロスとは何なのか、よーく考えておくように」とヴィクトル=サンに宿題を出され、西郡と基礎練習に入る勇利ですが、あんまりにもこれまでの自分のスタイルとはかけ離れていて、頭を悩ませます。西郡はテキトーに答えとけよ、なんて言いますが、ヴィクトルは天才だから考えなくても演技が成り立つんであって、ちゃんと考えないとダメだと必死に考えてます。偉いなあ。
「僕にとってのエロスって何だ?」
ヴィクトル=サンの演技から、物語が見えたんだと勇利は言います。
街にやってきた色男。彼は次々と女達をとりこにしてゆき、街いちばんの美女に狙いを定めます。なびかない女は、男と駆け引きをするうち、正確な判断ができなくなり、ついに男に溺れる。すると男は飽きたとばかり突き放し、また次の街へ。
「キャーカッコイイー(棒)抱いてー(棒)って、なんか勇利のイメージじゃねーなー」
「だろー?絶対ヴィクトルの方で観たかったとか言われるんだ」
自然に断言する辺り、今までやってきたこととはホントにかけ離れているのでしょう。
ヴィクトル=サンの真似して滑った例の動画だってエロかったじゃないかと西郡は言いますが、勇利は即答します。
「真似じゃダメなんだよ! それじゃヴィクトルを越えられない!」
勇利にはちゃんと伝わっていました。ヴィクトル=サンが、自身の予想の斜め上を行くことを勇利に望んでいるのだと。だから真似じゃなくて、オリジナルで勝負しなくてはいけないのだと。
一方ユリオはというと、ダメ出しの嵐です。
技術は確かに超一流、負けん気の強さ故の勝負強さはあるものの、まだ15歳の子供で内面の成熟はこれからです。そのせいでしょうか、表面的な、テクニック面での振り付けは正確にこなせているけれど、情緒的な表現が難関になっていました。
「今のユリオのままじゃ、欲が前面に出過ぎてて、全然アガペーの無償の愛って感じがしない」
勇利と対照的に自信たっぷりなユリオですが、曲のテーマを考えると、むしろそれは邪魔になってしまう、とヴィクトル=サンに指摘され、カチンときたユリオ。散々自信満々に滑ってきたあんたが何言ってんだ、と食い下がります。ユリオにしてみれば「どの口が言うのかクソジジイ」といったところでしょうか。
「じゃあヴィクトルにとってのアガペーって何だよ!」
ヤケクソでそう訊ねるユリオに、ヴィクトル=サンは愉快そうに答えます。
「そんなのフィーリングなんだから、言語化できるわけないだろ? いちいちそんなこと考えながら滑ってるのか? おかしな奴だなあユリオは」
このひと言で、ヴィクトル=サンが真物の天才であることが端的に描かれています。始めから答えは自明のものであって、あとはどうアウトプットするかの問題でしかないんですね、ヴィクトル=サンの中では。
でも教えている以上、さすがにそれで通すわけにも行きません。ブルース・リーは「考えるな。感じろ」と名言を残しましたが、ヴィクトル=サンはひと言で済ませます。
「ま、寺かな」
近所のお寺で座禅させました。
夜、寺で修行させられたヤンチャ小僧と、エロスを求められた清らか青年はすでにぐったりしてます。
ぐったりしながら、それでも自分にとってのエロスについて考えてる勇利、けなげですね。夕飯の最中にも考えています。もやしとささみとブロッコリの夕飯でウェイトコントロールしながら、目の前ではヴィクトル=サンもユリオもカツ丼を食べてるわけです。これ見よがしに。お腹空きすぎた勇利、ついにおかしくなりました。
はふ!「わかった! カツ丼! それが僕にとってのエロスだ!」
ユリオは「まじかよ」なんてバカにしてますが、ヴィクトル=サンはユニークだねと言いながらも否定せずに、それで行こうと受け入れます。もう勇利のことは完全に肯定。なんなのこの寛容さ。
翌日も練習は続きます。勇利は地道に基礎練習や振付を積み重ね、一方でユリオは事あるごとに寺。しまいには「うーん、ま、滝かな」。自分ひとりだけ、座禅させられたりして面白くなかったのか、ここでユリオは勇利を付き合わせます。
何がアガペーだよ、なんて文句言いながら、滝に打たれるうち、水の冷たさからユリオはある光景を思い出していました。
幼い日、故郷の凍てつく冬の日。
祖父に手を引かれて歩く、スケートを始めたばかりの小さな自分。
「じいちゃん、またあしたもいっしょにれんしゅうきてくれる? もっとじょうずにすべれるよ! ママがこなくても、ボクだいじょうぶだから!」
ユリオの、あの過剰なまでの負けん気は、じいちゃんと肩寄せ合って暮らした幼い日が原点だったのです。たぶん、この思い出はユリオにとって何より大事な、氷の上で生きる動機なのでしょう。貪欲に勝ちを獲りにいくのは、活躍すればじいちゃんが喜んでくれるから。喧嘩っ早いロシアンヤンキーは、そんなさびしい境遇のおじいちゃんっ子でした。もう ヤンキーとか言えない。やだ、すっごいいい子…。
幼い日を思い出し、滝から出ようと勇利に促された瞬間、虚を突かれて、思わず素の顔で答えちゃうユリオ。あんまり無防備で驚く勇利ですが、その頃ヴィクトル=サンは長浜でラーメン喰ってました。ヒドイ!
…と、まだ前半部分ですが、一旦ここでおしまい。一気に全部やっちゃうと、文字数が膨れ上がって、読むのも書くのも大変なので。
ホント何なんですかこのアニメ。緩急自在のテンポで楽しく快適に観られるのに、こうして細部をバラしてほぐしてクローズアップしていくと、とんでもない情報量が詰め込まれてる。しかも話数を追うごとに、1話分込められた情報量が倍々ゲームで増えてませんかこれ。何ですか。何なんですか。スルメのようですよ。延々と咀嚼して味わえますよ。観るたびに違う観かたができるって、もう押井守作品と並び立ってますよ。この温泉on ICEだって、純粋に物語を味わって観たあとで少なくとも勇利、ユリオ、ヴィクトル=サン、それぞれが何を考えてこう振る舞うのかを考えながら観れば、更に3回は楽しめる。
何ぞ…何ぞこれ…!
しかも、キャラクターそれぞれ、実在のスケーターをモデルとしながらも、決定的に違う点がちゃんとあって、決して直截のイコールになっていないところが心憎い。モデルになった方の試合も観てみようかと興味が湧くし、それをきっかけに、アニメだけでなく実際の試合も楽しく観られるようになって、この作品を契機として、観ている人の世界もそうして少しずつ広がっていく。すごいな。そういう観点からも、ホントにステキな物語だと思います。
とりあえず今日は前半のみで。後半の温泉on ICEパートの考察は明日やります。まじで。
おたのしみに。