雑種犬肉球日記

雑種犬が書いたブログ。

「ユーリ!!! on ICE」という驚異を見つめる 第四滑走・その傷こそが輝きになるから【前編】

やっと第四滑走の考察のためのメモ書きがまとまりました。今日はサブタイトル通りの内容でいきますよ。

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第三滑走・温泉 on ICEでの勝負を経て、ヴィクトル=サンは日本に残ることになったものの、勇利はまだ実感を持てなくて「神様がそばにいてくれているような」シュールで現実味を感じられない状態のようです。まるで生なましい夢でも見ているような、そんな感じなのでしょう。

それでもやっぱり、着々とシーズンは近づいていますから、もうどんなプログラムを、どんなスタンスで演技するのか、しっかりとまとめて方針を決めていかなくてはなりません。二人の会話も、より具体的になっています。

「フリーに3種類の4回転入れるの諦めたら?」

「でも!GPF優勝するなら、そのくらいできないと」

「プログラムコンポーネンツで満点出せばいいじゃない」

自分に欠けているものを足そうとする勇利に対して、4回転1種でも今持っている強みを最大限まで伸ばして勝ちにいけばいい、という考えのヴィクトル=サン。勇利は不安材料にばかり目が行って、少しでも武器になるものを増やしたいと思っているようですが、むしろヴィクトル=サンは「他の選手が欲しくてもなかなか身に着けられないものを持っているんだから」と、勇利の長所を引き出そうとしています。

これまでの試合での勇利は、ジャンプの失敗など技術的な評価でいまひとつであっても、ステップやスピン、楽曲解釈といった表現力で得点を稼いできたのですね。でも、勇利本人にしてみれば、

「このままじゃダメだ。変わらなきゃ!」

どうしても自分にないものに目を奪われています。

そんな彼にヴィクトル=サンは言いました。

「勇利は、何で俺がコーチを引き受けたのか解ってる?僕が勇利に惹かれたのは音楽さ。その、体が奏でるようなスケーティングそのものだ。それを活かした高難度のプログラムを作りたい。…俺にしかできない。そう直感したんだ」

あの「離れずにそばにいて」の動画で感じたのは、音楽と渾然一体となった勇利のスケーティングが秘める可能性。勇利には何があって、それをどう引き出せば花開くのか。自身のスケート人生にマンネリからの行き詰まりを感じていたという以上に、おそらくヴィクトル=サンの中に「このスケーターの才能が開花するところを見たい」「むしろ自分がそれを手がけたい」という欲求が沸き起こり、もう抑えきれなくなってしまったのでしょう。いちいち本人に連絡して了解を得て、なんてまどろっこしいこともしていられないくらい、いてもたってもいられなくて、押しかけコーチを買って出た。勇利がヴィクトル=サンのファンであるのと同じくらい、ヴィクトル=サンも勇利のファンになってしまったのかもしれません。同時に、自分のライバルとなりうる選手を自分で育て上げるというスリリングな誘惑もあったのではないかと思います。

ヴィクトル=サンは勇利にこう提案します。

「次のフリーのプログラムは、勇利が自分でプロデュースしてみようか?」

これまでコーチが決めた曲を使用していた勇利は尻込みしますが、

「自分で作ったほうが楽しくなーい?」

ヴィクトル=サンはお構いなし。それでも勇利があんまり不安がるので、前任コーチのチェレスティーノに電話して、勇利のこれまでの様子を訊くことにしました。

「コーチのヴィクトルでぇっす」

「日本でコーチごっこかい?いい加減にしてくれよ」

勇利にはにこやかにしていたチェレスティーノですが、彼にしてみれば、いくら勇利が憧れていたとはいえ、やはり教え子がヴィクトル=サンの道楽に振り回されているように感じられるのでしょう。このチェレスティーノの様子からも、ヴィクトル=サンのコーチへの転向は「リビングレジェンドご乱心」「ロシア皇帝の道楽」と世間で思われているのであろうことがうかがえます。

でも何せ天才肌の人なので、世間とか外野とか凡人とかが何を言おうとどうでもよくて、ヴィクトル=サンは自分の感覚を確信していますから、チェレスティーノが塩っぽくても気にもとめません。

「ねーねー、なんで勇利に曲を選ばせなかったの?」

知りたいことは前置きなしにずばっと訊いちゃう。

チェレスティーノはその問いに、自分は選手本人の希望があれば好きなものを使わせるけれど、勇利が曲を持ってきたのは1度だけだったと答えます。悪くはなかったが、

「この曲で勝てるイメージはあるのか?」

「あ、…やっぱり、先生が決めてください…」

その1度すら、勇利は自分の選択に確信を持てなくて引き下がってしまったのです。

「勇利はいつも自分に自信を持てないでいた。もっと自分を信じるべきだと、私は言ってきたのだが」

チェレスティーノは、やはり勇利の才能を認めてくれていますが、どうアプローチすれば自信を持たせることができるのか、それを見出すことができずにいました。そんな彼に、勇利は今までよりも少しだけ力強い声で答えます。

「あっあの、チェレスティーノ。…僕、グランプリファイナル、リベンジしますからっ!」

「そのセリフ、去年のグランプリファイナルで聞きたかったぞ」

そう言いながらも、チェレスティーノ嬉しそうです。自分の手を離れたあととはいえ、あの引っ込み思案な勇利が、こんな言葉を口にできるくらい成長して強くなった。ただ、それを引き出せたのが自分ではなくて、コーチとしては未知数なヴィクトル=サンであることが残念でもありうらやましくもあり、というところでしょうか。

いい先生だなあ。

何ヶ月も連絡せず不義理を働いていたのが気になっていたので、やっとチェレスティーノと話ができて、勇利はホッとしてますが、途端にめんどくさい人が迫ります。

「ゆううーりいー。さっき言ってたデモ曲聴かせてー?なんで言わないの?俺コーチだよね?」

「はい。…すイませン」

もうコーチというより、めんどくさい彼氏みたいなすね方してますね。

たぶん、ヴィクトル=サンにしてみれば、直感的に「勇利はここを伸ばして、こう働きかけてあげれば才能を発揮できるのに何でみんなやらないの?」という具合で、コーチングのノウハウがどうこう、というより、ここでもやっぱり「天才ゆえに答えは自明で、あとはアウトプットの仕方だけの問題」でしかないんでしょう。だから全然コーチでございとふるまったりしないで、超自然体で好きなようにやっていますね。

なんかもう、気のいいニイちゃんが近所の子供に釣りだの自転車の乗り方だの教えてるようなノリ。で、それがたまたまスケート。

そのころ、ロシアでは。

LINE文通で優子ちゃんから、勇利が曲を自分でプロデュースすると知らされたユリオ。何だかんだ言っても気にしてるのがかわいいですね。

子ブタだのカツ丼だの言っても、自分が技術に気を取られて疎かにしていた要素で勇利に負けたと思い知らされているので、嫌いだった基礎練習をしっかりこなすようになりました。えらいなあ。

「同世代にライバルがいないせいで、自分の才能を過信しているところがあったが、日本のユウリ・カツキとの勝負で目が醒めたんだろう」

ヤコフコーチはユリオの様子から、いかに本気で取り組んでいるのかを察すると、今ユリオに一番必要であろう要素を満たしてやるべく手を打ちます。何も言わずともそれができるという、この一点で、ヤコフがいかにすごいコーチなのかが判ります。

ヤコフが取った手段は、ユリオに徹底した基礎を叩き込めるバレエコーチを招くことでした。

ボリショイ・バレエプリンシパルであり、バレエを知り尽くした最高のコーチ、リリア・バラノフスカヤ。引き合わされたユリオに可能性を感じた彼女は、ユリオに言い放ちます。

「フリーのプログラムはわたしが振り付けます。まず、あなたの目標を決めました。今シーズンのプリンシパル、いいえ、プリマになりなさい。…魂を売ってでも勝ちたいのなら」

迷いのない口調で言い切る厳格なこの女性に「自分と同種のアグレッシブさで」「自分にないものを与えてくれる」と直感で悟ったユリオは、リリアのバレエレッスンを受け入れます。

「魂売ったくらいで勝てンなら、この体ごといくらでもあんたにくれてやるよ」

勝つために貪欲に、今までおざなりにしてきたものを全力で拾いにかかるユリオにとって、これほどありがたいことはないでしょう。ユリオ完全始動です。それにしても、15歳でこの判断力、腹の据わり具合、先が楽しみなような、末恐ろしいような。

そしてこの段階で3000字オーバーしている時点で、第四滑走もそれ以降も末恐ろしい。

オソロシイので続きは明日。

 

この第四滑走ですが、ヴィクトル=サンと勇利の関係が「コーチと生徒」というよりもっと根源的なところでしっかり信じあっていく、その過程が丹念に描かれていて、すごく好きなエピソードです。

ここで二人の距離が近づく様子を見せてくれるからこその終盤があるわけで、とにかく物語の中で、かなり重要なことをしているエピソードだと思います。

あくまでも「俺はここが大事だと思いました(作文)」という程度ではありますが、続きをお楽しみに。