その昔、楊 星龍=サンのレベルがまだ20の頃。星龍=サンは自宅から歩いて1分の寿司屋でバイトをしていました。その寿司屋は、大将も常連のお客さんもあったかいお店でしたが、ある日星龍=サンは、お店に隠された、ある怖ろしい真実を知らされるのです。
それは、お客さんと大将がいつものように楽しく話している最中のことでした。何かの拍子に、大将の元カノの話が出て、ひと頻り話に花が咲いたとお思いください。そこで、不意に常連さんのひとりが、すっと壁の一箇所、天井近くの辺りを指すと笑顔でひと言、
「包丁持って追い回された時の血痕、あの辺だよな。まだ残ってたっけ?」
え?
壁に血痕?
あんな天井近くに?
まじで?
…で、お客さんの指差す方を見るとですね。
あるんですわ。血痕。年数が経ってるから茶色く変色してますが。
それを見た瞬間、そんな包丁持って追われるようなナニをしたんすか大将、とか、おとなの交際KOWAI‼︎‼︎‼︎‼︎ とか思うよりも前に、私の脳裏をよぎったのは、角川文庫の、あの黒い背表紙。
そして新婚初夜の琴の乱れ弾き、離れの至るところに遺された三本指の血痕、意想外のかたちで重要な役割を果たす水車小屋‼︎
それ以来、私は密かにその壁の血痕をこう呼ぶことにしました。
「本陣殺人事件」
寿司屋でのバイトは、もう何年も前にやめましたが、店も大将もまだ健在です。本陣殺人事件も、まだ残っていることでしょう、きっと。
若いおんなが血痕を見てコワイ! よりも早く横溝正史作品を連想するダメさ加減については、とにかく触れない方向でお願いします。
探偵小説ってイイよNE!☆