さっき仕事帰りに買ってきたこれ。
下宿屋本丸ではちょっとした緊張が走っております。
「どうしましたか管理人さん、お腹を召すんですか」
普段あんまり寄って来ない毛利がテカテカしております。
「ぜひ! 小さい子をご用命ください! 小さい子を主役に! 主君がお腹を召すときの短刀だなんて、立派な晴れ舞台じゃありませんか! 小さい子! 小さい子! 」
「大将、お腹を召すなら俺を相棒に選んでくれる約束だよな? 」
「おいおい、厚も毛利もどうかしてるぜ、大将は俺と柄まで通して派手に討死するんだぞ」
「かんりにんさん、おはらをめすなら、ぼくと岩融もおともしますよ」
「人間の一生の最期だろ、つまり祭りみてえなもんってことだな! 祭りなら俺一択だろー! 」
「ぼくも長船をだいひょうしてがんばるぞ! ちゃんとかんりにんさんを、ごくらくへエスコートできるぞ! 」
「オレとニライカナイに行けば、管理人さんの大好きな酒が山ほどあるさー」
「ああ、あなたついに腹を切るんですか? それなら当然、お小夜と太閤を指名しますよね? そんな名誉ある大役、あの子達以外の誰が務められると? 」
「宗三兄様、待って落ち着いて」
「よーし儂がんばっちゃうもんねー。小夜、一緒に管理人さんをズバッとやってやろうなー」
やだ管理人さんモッテモテ。
だがごめんな。腹切るんじゃなくて、食べたいから買ってきただけ。
「あ、やっぱりー? だよねえ、死後硬直でコッチコチの懐なんか、入っても居心地悪そうだものね。よかったー」
ブレないね信濃。なんか一本筋が通ったところを見せてもらったよ。
さて、明日仕事に出ると1日休みなの。たぶんまた打鍵して終わるんだろうけど。
とりあえず終わらせるだけ終わらせて、それから次に行こうと思ってるんだけどね。ネタというか、些細な言葉をフックにして押し広げて書いてる感じでしてね、次もなんだかまたそうなりそうな気がしてる。
「成長なんかしていようがいまいが、ご主人様は最高だよ! こんなに僕のことをよくわかってくれるご主人様は、もうきっと見つからないよ! 」
ブレないやつがもう一振りいた。で、亀甲はそこでうずくまって何をしてるのかな?
「やだなあ、何って、僕はご主人様専用の座布団だよ? 」
「あ、亀甲兄ちゃーん! ドーン! 」
貞ちゃんナイスジャンピング。
「修行したら成長したね僕の弟…立派になって…うれしいよ…」
「なあなあ、みっちゃんと小豆が、新しいおやつメニュー考えたから、物吉兄ちゃんと亀甲兄ちゃんと一緒に試食においでってさ! 」
「わあ、それは素敵だね。ご主人様の座布団という仕事もあるけど、せっかくだからお呼ばれしようか。いいかな、ご主人様? 」
ご招待されてるんだから、構わず行っておいで。
「風呂行ってきたぞー。なんだ、さっき短刀のガキどもがしょげてたが、なんかあったのか」
「ただいまあ。毛利が死んだ魚みたいな目で歩いてたけど、どうしたー? 」
あ、それ訊いちゃう?
「実は、さっきここで誰が管理人さんの腹を切るかで張り合っていてなあ」
相談役、いたなら見てないで止めなさいよもう。
「面白いから見ていた」
「ふーん。そんなの、もう決まってるのになー。俺が正面から姐さんの心の臓をひと突き、まさやんが介錯って、なあ」
「姐御もあんまりガキどもその気にさせるなよ」
…え。何それ。今初めて聞いた。
「だろうなあ。姐さんに言ったの初めてだし」
「まあそういうこった」
「はっはっは、管理人さんはモテるなあ」
いやちょっとおじいちゃんは黙ろう。てゆうか嬉しくないから。そういうモテ方は嬉しくないから。生きてる間になんかこう、レアメタル鉱山掘り当ててひと山当てたって採掘権譲ってくれたり、なんか、そういう生きてる間にいい具合にいい思いさせて欲しい。そんな死の間際に親しく交流とかは勘弁。
「まあ、とにかく姐御の死に様はちゃんと俺たちがプロデュースするから安心しろ」
「姐さんにみっともない死に様は晒させねえ。大船に乗ったつもりで任せてくれよ」
なんでこんなところで漢前っぷりを発揮するんだ。チクショウ!
なんか、もう死に様を近侍に決められちゃったので、仕方ない生きるか。
日曜にはF1もあるから生きる。